南極の旅

NO.25
 クルージング

南極の旅一覧

 巡航船・マルコポーロ号
 航海・大陸上陸・航路変更

@ 巡航船・マルコポーロ号について

マルコポーロ号は、20,502トン、長さ176,3m 幅23,6m 喫水8m、耐氷機能を備えた客船である。
乗客定員は848人であるが、南極旅行という特殊な条件を考慮して400人に抑えた。
船内施設:レストラン(2) カフェ バー カジノ ジャグジー ジム プール 劇場 診療室 美容室 
図書室 売店等 甲板にヘリーボート
船室内設備:シャーワー トイレ テレビ 電話 空調設備 ヘヤードライヤー セフティボックス等 
  

A 大陸へ上陸 航路の変更

航海中、安全の確保ができれば上陸することができる。
しかし南極の厳しい自然条件下では容易なことではなく、特に極点に近づくほど上陸は困難になる。
航行及び上陸に関しては、最新鋭の機器データーに基づき、さらにヘリコプターによる偵察のあと、
最高責任者の船長が決定する。

一度大きく 航路の変更 を余儀なくされたことがあった。
15日目の1月24日、船はロス湾進入の可否選択に迫られていた。
ロス湾探訪はこの船旅のハイライトなのだ。

asahi com (武田 剛氏撮影)

ロス湾

ロス棚氷は天をつくような巨大な氷壁が600kmも続くのである。
この壮大な光景は他に比類をみない。
これが見たいがために、みんなやって来たのだ。

ところが、流氷が風に流されてロス海に集まって来た。
大きな・高層マンション数個分もあろうかというような・氷山も続々とやってくる。
真っ青な海にキラキラ光ってとても神秘的。
乗客は大喜びではしゃいでいた。

その頃、ブリッジは緊迫した空気であったろう。
予定通りロス湾に進入して、棚氷を見せたい。
しかし、そこには大きなリスクがある。
進入はできるだろう。
でも、無事にロス海に戻れるという確証はない。
今後の風向によっては、この流氷がロス湾を埋め尽くしてしまう。
そうなれば自力脱出は不可能となり、大事件となる。
丸一日かけて、あらゆる見地から検討していた。

1月26日 正午、船長からの重要放送があった。
「私はマルコポーロ号船長として、苦渋の判断を迫られ、各分野のスタッフと慎重に検討した結果
本船のロス湾内航行を断念し、進路をロス島へと変更します。
これは乗客と乗員の安全を第一に考えた結果であり、他の選択肢はありません。
みなさんのご理解とご協力をお願いします。」

航海の最高責任者として全ての権限と共に、全責任を負わされている船長の決断だ。
そのことはよく解る。
でも、どうして?
知識のない私たちは不満を持った。
こんなによいお天気なのに。行ける所まで行けばいいのにねぇ。
せっかく目の前まで来ているのに・・・ハイライトがキャンセルだなんて・・・

2日後に悪天候による、スリリングな事態に巻き込まれるとは想像すらできなかった。


一年中で最も穏やかな天候時とはいえそこは極地、上陸時はフル装備で臨む。
ダウンジャケットの上に、支給されたお揃いの防寒コート(特別な繊維でできていて薄くて暖かい)
鮮やかな朱色、真っ白な氷上で目立つように。
ズボンと靴下は最高5枚、耳を覆う帽子3枚、マフラーで顔を覆う。手袋3枚、それにカイロたくさん。
膝までのゴム長靴。
一番上に救命胴衣を着る。
これは最重備の防寒装備で、南極入り口の半島では、こんな重装備は不要。

重装備した日本人グループ・エバンズ岬にて  上陸用ゾティアック


本船は沖合に停泊するので、上陸はゾティアック(ゴムボート)に乗客15人ずづに数名の乗員が
添乗してグループ毎に行われる。
白夜でいつも明るいので、早朝から夜遅くまで続く。

南極フルコースでの上陸回数は最多が9回、最少が0回だそうだ。
私たちの航海で上陸できたのは、4回と5回のグループに分かれた。
私は4回のグループ。

1月28日(19日目) ロイド岬へ上陸して、シャクルトン小屋を見学する予定だった。
フル装備でゾティアック乗船口で待機していたら、クルーの動きがただならぬ様子になった。

突然上陸中止となった。

「どうして? 次は私たちの番なのに・・・運が悪い!」
みんなで文句いいながら解散し、船室で装備を解く。
窓を叩く強い風の音。うねる高波。あっという間の変化。これが南極なんだ。

船長の緊急放送が入る。
「上陸地の天候が急変し、安全の確保が困難になった。上陸は中止する。、
船長以下全乗員は取り残された乗客全員が無事帰船するまで救出作業に専念する。
強風と高波による船の揺れに注意。各自安全に注意。甲板への出入り禁止。
船内の各種サービスが滞ることを了承願いたい。」

血が凍るような思いで放送を聞いた。直前で中止になったのは幸運であったのだ。
ヘリコプターの轟音、乗員が走りまわっている。
船内は緊迫した空気に包まれた。
取り残された人は40人ぐらいらしい。
マイナス15度、強風の吹き荒れる海で、氷の上でみんな無事だろうか。

窓から外の様子が見える。ガスに霞んだ南極の海。
荒れ狂う波の上で木の葉のように揺れるゴムボート。
毛布にくるまれた人がロープでつり上げられる。

しばらくして「こちらブリッジ、只今乗客の一人が救出されました。
残る人々も全員無事です。」との放送。
うあぁ!!歓声が上がる。

後で聞いたことだが、みんな顔は土色、唇は黒むらさき色、気を失っている人もいた。
極地旅行の厳しさをまざまざと知らされた出来事であった。

2時間後の午後8時過ぎ、全員無事救出の放送が入る。
拍手が鳴りやまなかった。
遅れて夕食が始まった。
すっかり冷めてしまったお料理、でもだれの心も温かいもので満たされたいた。

診療室に入院した人もいたが、全員元気回復、航海は続けられることになった。
このことがあってから、船長、乗員への信頼感が強まり、乗客同士の親密度が
増したように思う。

他の海外旅行では体験できない貴重な体験であった。

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